TALK ROOM税理士会上尾支部税務支援対策部長 丸山 稔 本年7月以降に実施する相続税の調査対象事案の選定に、人工知能(AI)が活用されている。これまでは経験豊富なベテラン調査官などが、勘や経験に基づき申告内容の確認を行っていたが、AIを活用することで効率的な選定が可能となった。 この仕組みでは、提出されたすべての申告書データを集約し、被相続人及び相続人の過去の税務履歴や脱税歴、財産債務調書、海外送金を記録した資料、金地金を売却した際の支払調書など、様々な資料を基にAIが分析し、さらに過去の相続税申告において申告漏れなどが生じた事案から不正や申告ミスが生じる傾向を見つけ出し、AIが算出した「税務リスクスコア」に基づき調査対象とするか否か、また、調査を行うこととした場合、実地調査を行うか、電話等での聞き取り調査を行うかなどの判断を行うことになる。 全国の相続税の課税件数割合(死亡者数に占める課税件数の割合)は、平成26年に4.4%であったが、相続税の基礎控除が引き下げられた平成27年には8.0%と大幅に増加し、その後も増加傾向にあり令和5年には9.9%となっている。実に、死亡者の10人に1人が相続税の課税対象であり、埼玉県だけでみると令和5年の割合は11.3%と、さらに高い割合となっている。 かつては富裕層だけのものと考えられていた相続税であるが、サラリーマンであっても自宅を持っていたり、多額の生命保険を受け取ったことにより相続税の課税対象となるケースも増加している。その結果、税務署では相続税調査が追い付かず、平成26年には20%以上であった実地調査割合(申告件数に占める実地調査件数の割合)が、近年ではわずか5〜6%にすぎず、多くの申告者は調査を免れている状況にある。また、税務署の職員はベテラン職員が減少し、若手職員が増加しているため、これまでのように職員の勘や経験に基づく調査事案の選定にも限界がある。 このような状況下において税務当局では「課税・徴収の効率化・高度化等」に向けて、以前から税務行政のデジタルトランス・フォーメーションに取り組んでいる。調査対象事案の選定にAIを活用することもその一環であり、選定事務の効率化により確保された事務量は調査事務に振り向けられ、調査対象となる件数は増加するものと考えられる。 これまで、調査対象となる事案は、大口・悪質な不正計算が想定されるなど、調査必要度の高い事案が中心であったため、遺産総額が高額な事案が調査対象となることが多かった。しかし、これからはすべての申告書データについてAIが分析し、リスクスコアに基づき調査を実施することとなるため、悪質性がなく単なる申告漏れや遺産総額が小さな事案であっても、申告にミスや申告漏れがあれば調査対象になる可能性がある。 AIによる調査選定のリスクを下げ税務調査を回避するためには、適正な申告書を提出することに尽きるが、相続人がすべての相続財産を把握することは困難である。そのため全財産をリストアップした財産目録を作成し、相続人に伝えておくことが重要である。また、親の資金を基に作成した家族名義財産や親族間の資金移動、多額現金の出金などは、過去の調査事例においても指摘されることが多いため、事前に状況を整理し、事実関係を明らかにしておくことも必要であろう。 ご心配な方は、一度、顧問税理士などにご相談されることをお勧めします。9相続税調査にAI活用税理士談話談話
元のページ ../index.html#9