毎年6月中旬に国税庁から「査察の概要」が発表されます。これは、各国税局の査察官が行った査察調査の結果を取りまとめて概要を国民の皆様に報告しているものです。私は、国税の職場を退職して開業したOB税理士ですが、現職中にこの報道資料の作成に携わった経験もあり、この時期の関心事になっています。「査察の概要」の報道資料は、脱税白書とか査察白書とも称され、伊丹十三氏が監督・脚本を手掛けた映画「マルサの女」が封切られた1988年以降注目を浴び、発表されると新聞全国紙の社会面に大きく取り上げられたものでしたが、現在では1段程度の小さな取り扱いになってしまい隔世の感があります。この原稿は、令和6年度の「査察の概要」が発表される前に書いているので、令和5年度の査察の概要について少し触れておきます。令和5年度の「査察の概要」によりますと、査察調査の着手件数は154件、処理件数は151件、内101件を検察庁に告発し、告発率は66.9%です。 告発した査察事案の脱税総額は89億3,100万円で、1件当たり8,800万円です。告発した査察事案の税目別の件数は、法人税59件、消費税27件、所得税14件、相続税1件で、脱税総額は法人税57億3,400万円、消費税18億3,100万円、所得税12億1,400万円、相続税1億5,200万円です。検察官が起訴した査察事件に対し、令和5年度中に83件の一審判決が出され、有罪率は100%で、そのうち9人に実刑判決が言い渡されています。実刑判決のうち最も重いものは、査察事件単独のもので懲役4年、他の犯罪と併合されたもので懲役6年です。 200件にも満たない件数で、我が国の経済動向について云々と言うことはできませんが、発表された数字についてみていきますと、例えば、着手件数は平成21年度までは200件台で推移していましたがその後減少して、コロナ禍の平成2年度は111件となり、令和5年度は154件となっています。この数字が多いか少ないかは人によって考え方が違うと思いますが、減少傾向にあります。その原因が経済取引の広域化、デジタル化などによる脱税手段・方法の複雑・巧妙化によるものなのか、日本経済に活性が無くなってしまったのか、マネーロンダリング対策で規制が厳しくなったためなのか難しい問題です。告発率については概ね70%前後で推移していますが、この数字が高いか低いかも人によって区々だと思います。ただ、着手件数を増やそうとすれば告発率は下がるのでないかと考えています。告発した査察事件の1件当たりの脱税額は令和5年度は8,800万円ですが、着手件数が200件台であった平成21年度は1億7,100万円で倍近い数字になっています。告発した査察事件の税目別内訳は、法人税が半数以上を占めていますが、平成29年度以降は消費税の件数が所得税の件数を抜いて2番目となっています。特に、消費税の受還付事案は国庫金の詐取ともいえる悪質性の高いものであることから積極的に取り組んでいる表れかもしれません。「査察の概要」が発表されますと、多額な現金とか金地金といった不正資金の留保状況や隠し金庫とか屋根裏といった不正資金の隠匿場所が注目されがちですが、発表された数字について今年度はどうなっているだろうと眺めてみれば新たな興味が湧くかもしれません。この「法人あげお」が発行されるころには平成6年度の「査察の概要」も発表されていると思いますので、ご興味がありましたら国税庁のホームページでご覧になってみてください。税理士綱紀監察部長 友光 洋幸TALK ROOM9「査察の概要」について税理士談話談話
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