法人あげおNo.162
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認識や測定が重要なのか、今期いくら儲かったのかが一番重要な指標なのではないか、と。 しかしここ数年来、成長する会社、後継者問題で悩む会社、業績の良くない会社など様々な会社と関わる中でこの伝統的な考え方に対して疑問が生じてきた。 損益計算書は過去の取引の累積である。過去の利益が将来にわたって継続するという仮定は、この多様化した社会において果たして有効に成立するのだろうか。過去の、しかも人為的に区切った一期間の成果にどれだけの価値があるのだろうか。会社は今後成長し、あるいは衰退していくのだろうか。会社の未来を語ることはできないのかと。 そこで初めて資産負債アプローチの考え方が腑に落ちたのである。貸借対照表には将来の情報が詰まっている。会社の未来への意思表示なのだ。関東信越税理士会 上尾支部業務対策部長矢部光貞1.中小企業の持続可能性 最近SDGs(Sustainable Development Goals)という言葉が世間をにぎわせている。SDGsは「持続可能な開発目標」と訳される。気候変動やエネルギー政策などの諸問題に対応して、どのように継続して世界が発展を遂げていくか、という問題意識であろう。 ここで、持続可能性というキーワードで中小企業における会計について考えてみたいと思う。2.収益費用アプローチと資産負債アプローチ 伝統的な会計観に収益費用アプローチがある。一会計期間における企業の活動の成果たる収益と、その犠牲たる費用の差額が利益であるという考え方である。端的に言えば、決算書を見て一番初めに気にするのが「損益計算書の当期44の利益44はいくらだった444のか」、ということである。 一方、世界標準であるIFRSや米国会計基準は資産負債アプローチの考え方を採用しており、我が国の伝統的なアプローチとは異なる。この立場では将来の企業への経済的便益(キャッシュ)の流入をもたらすものが資産であり、流出をもたらすものが負債であると考える。すなわち利益や純資産は資産と負債の差額概念に過ぎないのである。 我が国の会計基準はIFRSとのコンバージェンスが進んでいるとはいえ、特に中小企業会計の間では伝統的な収益費用アプローチの考え方が支配的であろう。3.過去の情報と未来の情報 私は恥ずかしながら受験生活が長かったので、当然のように収益費用アプローチの価値観にどっぷり漬かっていた。だから当初は資産負債アプローチの考え方には全く馴染めなかった。なぜ資産や負債の4.中小企業の会計で未来を語るために 貸借対照表であれ損益計算書であれ、適正な財務報告のためには正確なインプットが欠かせない。インプットが正確であるという心証を得るためには、資産・負債科目の残高が正しくなければならない。当たり前じゃないか、とお叱りを受けそうだが、損益科目を重視するあまり、貸借対照表の資産・負債にゴミが溜まっていないだろうか。 そして、資産・負債の正確性のためには、企業の内部管理体制の整備が必要である。経営者が会計に対して誠実であるか、正確な情報を適時に入手可能な体制が出来ているかということである。 こうして出来上がった財務諸表こそが中小企業の持続可能性を計る物差しとなり得る。 自戒を込めて、職業的専門家として、関与先企業の発展のために、これらのことをアドバイスできるように自己研鑽をして行きたいと考えている。− 9 −税理士談話持続可能性と資産負債アプローチ

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